熱波で数を減らす生物種
ナショナルジオグラフィック 公式日本語サイト 9月14日(金)11時25分配信
マーモットは通常、気温の低い高山に生息している。冬眠中は地下の巣穴で厳しい寒さから身を守り、夏季には脂肪を蓄えるためエサを食べ続ける。長い冬や雪不足はマーモットにとって命取りだ。さらに、夏の小雨はエサの生育に影響し、春にたくさん雨が降れば交配が進まない。
2012年の冬、アメリカ西部の積雪量は著しく減少し、夏は記録的な猛暑と干ばつが続いた。
「特にロッキー山脈ではマーモットの生息数が急減した。異常気象のせいだ」と、コロラド州でマーモットを研究するカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)生態・進化生物学部のダニエル・ブルームスタイン氏は指摘する。
同氏は、野生動物が数を大幅に減らす原因は、地球温暖化による漸次的な気温上昇ではなく、異常気象が度々発生するからだと警告する。
残念ながら、もはや「異常」と呼べない状況になりつつある。地球温暖化が進むにつれ、海水の蒸発量が増加。大気中の水分が右肩上がりに上昇すると、熱波や干ばつ、豪雨までも日常化する可能性が高い。
「今年は幕開けから災難の連続だったが、なんとか帳尻が合いそうだ」とブルームステイン氏は言う。ロッキー山脈に最近雨が降り、エサとなる植物が復活。マーモットは脂肪を蓄え、繁殖期に入っているという。
◆有蹄類は野生も飼育下も苦境
春から初夏にかけて雨がほとんどなく、全米の広い範囲で草原が育たず、草を求めるシカなどの有蹄動物が十分な食糧を得られずにいる。ユタ州の野生生物局は、冬場にアメリカアカシカの個体群が餓えて全滅するのを防ぐため、狩猟許可頭数を1000頭追加したと地元紙は伝えている。
食糧不足は飼育動物についても同様で、干ばつのために放牧用の草地が枯れ、飼料価格も高騰していることから、畜産農場の経営者は早い段階で家畜を食肉用に売却せざるをえなくなっている。
家畜については、一部には炭疽症による被害もあり、コロラド州やテキサス州ではこの夏に100頭以上が死亡している。被害が増加した原因は干ばつと見られている。高い気温が続き、芽胞の形成が活発化した可能性があるという。また、乾燥した環境では土壌中の芽胞も数年間生存できる。干ばつで少なくなったエサを求め、家畜が地面を掘り返した結果、芽胞が撒き散らされてしまったようだ。
干ばつと熱波でストレスを受けた動物は、感染症に対する抵抗力も低下し、わずかな病原体でも命を落とす可能性が高まるという。
◆森林の被害
米国森林局の報告によると、暑さによるストレスから病気になりがちな動物と同じように、樹木も病害虫の侵入を許すようになり、ニレ立枯病などに対する防御力が弱まるという。
さまざまな種類のキクイムシやマツクイムシのために、全米で累計では数十億本の樹木が失われているが、今年の大量枯死は、急速な気候変動と長引く干ばつが関係している。ジョージア州では、米粒大のブラック・ターペンチン・ビートルやサザン・パイン・ビートルが運ぶマツクイムシ被害が拡大した。インディアナ州では、トネリコがアオナガタマムシの大被害を受けている。深刻な干ばつに襲われ植物が枯れ果てた西部は、あたり一面が茶色に変色している。
じわじわと進む地球温暖化の影響はもちろんの事、暖冬傾向が著しい近年は害虫の生息域が拡大、記録的な大量枯死を招いている。また、山火事を恐れる森林管理の方法にも問題がある。多くは同齢の人工林で、老朽化が進んだ樹木はより害虫の被害を受けやすくなっているのだ。
◆西ナイルウイルスを媒介するイエカは繁殖
一方で、熱波の影響で、西ナイルウイルスを媒介する蚊の一種、イエカが勢力を増している。アメリカ西部、オレゴン州ローズバーグ市近郊の牧場でも、ウシの水飲み場にイエカのボウフラが大発生中だ(写真)。
記録的な猛暑で蚊の繁殖地の多くが干上がり、洪水後に大量発生するタイプは抑えられているが、西ナイルウイルスを媒介するイエカ属は増えているという。
今年は、国内の西ナイル熱感染例が9月11日時点で約2636件報告されており、118人の死者が出ている。疾病予防管理センター(CDC)によると、1999年に初めてウイルスが確認されて以来最悪の数字だという。
公衆衛生管理当局者の間では、今夏の干ばつが患者の大幅増を招いた要因だとみられている。「温度が上昇すると、蚊が媒介するウイルスの伝播率が高まる実験結果が出ている。関係は大いにありそうだ」と、CDCで昆虫媒介感染症部門の責任者を務めるライル・ピーターセン(Lyle Petersen)氏は8月の記者会見で述べた。
西ナイルウイルスに感染すると、最悪の場合、ヒトの神経系に侵入して髄膜炎や脳炎を引き起こす。しかし多くは自覚症状がほとんど現れないという。
Tasha Eichenseher for National Geographic News
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