<温室効果ガス>欧州の排出量価格暴落 企業の努力阻む
毎日新聞 3月4日(月)0時18分配信
【ロンドン坂井隆之】欧州連合(EU)が温室効果ガス削減の切り札として05年に導入した排出量取引制度(ETS)が、「存続の危機」(欧米メディア)を迎えている。域内企業に排出量の上限を課し、余った分を市場で売買する仕組みだが、想定よりも多くの排出量が市場に売り出され、価格が暴落しているためだ。ETSの低迷は、市場創設を08年から検討している日本での論議にも影響を与えそうだ。
欧州市場の排出量の取引価格は、08年夏の1トンあたり約30ユーロ(約3700円)から、2月末は4ユーロ台と約7分の1に落ち込んだ。08年9月のリーマン・ショック後、企業の生産活動が停滞した結果、各企業の排出枠が大幅に余ったためだ。商社や金融機関が、需要増加を見越して開発途上国から排出量を取得するプロジェクトを多く手がけたことも、市場に出回る排出量の拡大に拍車をかけた。
<~中略~>
途上国で再生可能エネルギーなどのプロジェクトを進め、国連の審査を受けた上で削減量を日本分として計算できる「クリーン開発メカニズム(CDM)」も実施されている。日本は11年度までに約9800万トン分の契約を途上国と結んだ。政府は今後、国連審査なしで排出枠をやりとりできる「2国間クレジット」を導入。モンゴルなどとの間で実施する。ただ、いずれも削減量は企業の自主的な目標。削減量を割り当て、未達成分を市場から買うEU型に産業界が反発しているためだ。ETSの不振が、日本の市場創設慎重論を一層強める可能性がある。【小倉祥徳】
【ことば】欧州排出量取引制度
欧州連合(EU)27カ国と周辺4カ国が参加する温室効果ガス削減のための制度。国別割り当て計画に基づき、域内の一定規模以上の発電所や工場に排出量の上限を割り当てる。排出実績は毎年計測され、達成できなかった企業には罰金が科せられるが、他社から余った枠(排出量)を購入して「自分で削減した分」とみなすことができる。排出量はロンドンなどの商品市場で売買されており、11年の取引総額は770億ユーロ(約9兆3700億円)、約60億トン分が取引された。欧州以外では、米国が州レベルで排出量取引制度を始めているが、排出量価格の低迷で、取りやめる州も出ている。
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